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オケクラフトセンターに行ってきました

オケクラフトセンターに行ってきました

小野寺孝弘さん(オケクラフトセンター森林工芸館・館長@北海道常呂郡置戸町)

今日はよろしくお願いします。実は、書籍「公民館のしあさって」にオケクラフトセンター森林工芸館(以下、森林工芸館)が公民館の事例として紹介されています。執筆者の西山さんのコメントは、「こうあってこそ社会教育!」。紙面ではページの限りもありましたので、イラストとちょっとしたキャプションに留まりましたが、今日は改めてその「こうあってこそ」を探っていけたら嬉しいです。

ありがとうございます。今年の四月に森林工芸館長という立場になったばかりですが、過去には公民館にも勤めたことがあります。本日は、よろしくお願いします。


生産教育という営みの歴史

公民館にも勤められていたんですね。それはそれは。そのあたりのお話も後ほどお聞かせください。まず驚くのは、森林工芸館は工芸品の生産や販売拠点にもなっていて、さながらアトリエのようだったり道の駅のようだったりするということです。そして、オンラインショップも展開しているという。置戸町の社会教育施設として位置づけられていると思うんですが、営利活動を制限している一般の社会教育というイメージとは異なる印象を受けます。

成り立ちのところからお話しをしますと、昭和55年に第3次社会教育5ヶ年計画のなかで「地域の活力を高める生産教育」が基本方針として盛り込まれました。町おこしとでもいいましょうか、地域の林業が衰退していくなかで、置戸町が木材の町であるということを再認識して、生活の場にもっと木を取り入れようと木工作に取り組まれました。基本的には、働く大人たちの趣味としての活動が進められた形ですかね。

大人はどうやって集まっていたんですかね?

もともと、風土的にモノづくりの好きな人が多いようで、その当時の公民館事業は、ほとんど木工に関するテーマで実施していたそうです。

モノづくりが好きな人にとっては、住みよい町なんですね。

その後、空き住宅を木工作業の施設にし、町民たちによる自主活動が始まりました。今はもうありませんが、公園の遊具や図書館の書架などが町民によって作られたと聞いています。

町の公共的なものや場所を自分たちで手掛けていく感じがカッコいいです。

町や教育委員会が発注して、モノづくりの取り組みを進めたことが凄いことですよね。活動も活発化していくなかで作業場も手狭になり、木材加工と農畜産物加工のための設備を備えた地域産業開発センターが昭和57年に開設され、翌年には町の特産品でもある木工芸品「オケクラフト」が誕生しました。

勢いがすごいですね。

昭和58年2月の第5回町民憲章推進大会に、著名な工業デザイナーであった秋岡芳夫さんをお招きして、講演会を開催していますから、当時の新しいことを始めようとするエネルギーを感じます。講演会のタイトルは、「木と暮らしのデザイン」。「地域素材に知恵と技を加え、暮らしに役立つ工芸品づくりから新たな生活文化の発信」という内容だったそうです。地域の資源を生活の中に取り入れる活動は、農畜産加工物にも向けられて、白花豆焼酎、山ブドウワイン、手作りソーセージ、枝豆を使ったグリーンパンやとうもろこしパンなど置戸の味づくりがおこなわれ、郷土料理を通した食文化の発信にも繋がっていきます。

教育を通した町おこしのパワーを感じます。

オケクラフトは、秋岡さんがきっかけとなり、昭和58年5月には、木工ろくろの第一人者である時松辰夫さんが技術指導に来られて、その年の11月には、東京日本橋の高島屋でオケクラフトの展示会をおこないました。半年に満たない期間での取り組みには驚きしかないですよね。

え、半年でオケクラフトが誕生したんですか、本当に勢いがすごいですね。

そうですね。オケクラフトの活動が活発になり、生産環境や担い手を養成するための研修制度の整備が進められ、昭和63年には、地域産業開発センターの隣に木材加工工房と販売店舗を持つオケクラフトセンター森林工芸館が開館しました。

ドラマチック・・・。


教育と生業、クラフトと産業

生活や暮らしを基盤としながら、価値を生んでいく。そんな社会教育のあり方をみているような気になります。もはや地域の生業を生んでいる印象を受けます。

現在、町内には24の工房がそれぞれ独立した個人工房として活動をしています。森林工芸館はいわば卸し先であり、最初の販売店としての位置付けです。あと2年で40周年を迎えるのですが、30周年の際に、素材調達、生産体制や流通・販売などの課題が検討され、平成27年に一般社団法人が立ち上げられました。それまではオケクラフト流通普及協会という任意団体だったので、法人格を持たせた方が販路拡大などオケクラフトを広めていくために良いということだったのだと思います。

なるほど。NPOや社団が公民館の運営を委託されるケースもありますが、ここでは活動の流れの中で法人化されていったんですね。40年もの歴史になってくると、世代の入れ替わりも多々起きてくると思います。生産者の方々は今でも地元の方々なのでしょうか?

24人のうち約4分の1が地元出身者です。オケクラフト作り手養成塾という研修制度をおこなっていて、当初は町民を対象としていましたが、今では全国に枠を広げて作り手を募集しています。置戸町に定住してクラフト生産に従事し、5年以内に町内に工房を開設する意志があることを条件に、2年間無償でクラフトの知識や技術を学ぶことができます。

地域のノウハウを外にひらいて届けていく取り組みをずっとやってらっしゃるんですね。ちなみに、生業としてクラフトを展開されている方もいらっしゃって、森林工芸館と作り手の方々の関係性は深くなりそうですね。

以前はそうだったのかも知れませんが、現在は、社団が卸し先や店舗販売をおこなっていますので、社団ほどではありません。そのため、社団設立以前の森林工芸館長は任期が長い傾向にあったと思われます。

たしかに取引先がころころ変わるとつらそうです。ちなみに、小野寺さんご自身は今の役職につかれた際に、どんなことを思われましたか?

実は私自身もモノづくりが好きなんです。クラフトを作ってみたいという気持ちが強いですが、立場上難しいです。

ああ、いいですね。先程、販路拡大という言葉も出ていましたが、そうなってくると社会教育機関としてというよりも、企業経営者的な悩みも増えてきそうですが、その辺りはいかがでしょうか?

そうなんですよね。産業化という意味では、量産体制をとった方が話しが早い可能性があります。一方で、オケクラフトは、手仕事で作ることの意味や価値を求めてきたところでもあります。「生産教育」というところでは、生産を教育にも生業にもつなげてきた歴史だと思います。そこからクラフトと産業というものをどう捉えていくか。そこはちゃんと考えていかないといけませんね。


社会教育は何でもできる

最後に、公民館でも勤務された経験のある小野寺さんに、社会教育とはどのようなものであるか?というお考えをお聞きしてみたいのですが。

一言で言えば、「なんでもできるところ」だと思います。

いろいろなところで「なんでもやらなければいけない」という声も聞きますが、すごいポジティブな表現でワクワクしました。

住民の暮らしや生活を考えていくときにそこに制限があってはいけません。「なんでもできる」というのは、建物やモノがないなかで、創意工夫をしてきたこの地域の歴史や文化の延長線上にあるんですよね。なので施設があれば満足というわけではもちろんありませんから、一人ひとりに寄り添いながら期待に挑戦していくことで、なんでもするし、なんでもできる。それが楽しいんですよね。この町の公民館でも、モノづくりサークルはたくさんあって、羊の毛を刈り取るところから始めてセーターを作っているサークルもあります。「この町の人はモノづくりが好きだね」なんて言われたこともありますが、そもそもモノづくりって楽しいですよね。


オケクラフトセンター
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