公民館のしあさって
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若狭公民館に行ってきました

若狭公民館に行ってきました

宮城潤さん(沖縄県那覇市若狭公民館)

先日の熊本でのフライング読書会でもありがとうございました。若狭公民館って、文部科学省の「優良公民館表彰」で最優秀館に選ばれたり、館長である宮城さんご自身も、各地の社会教育主事講習の講師や中央教育審議会生涯学習分科会の臨時委員を努めていらっしゃったりと、何かと話題に上がると思うんです。だからこそ、基本的な情報は若狭公民館のホームページを見れば網羅的に紹介されていますし、検索するといろいろと出てきます。そこで、今回のインタビューでは、せっかくなので検索してもあまり出てこないようなこともお聞きしたいと考えています。

いいですよ。どうぞよろしくお願いします。


公民館像をマッサージ

もちろん、いろんな活動をされていらっしゃいますが、「パーラー公民館」が象徴的なので、話題に出したいと思います。「移動式屋台型公民館」と銘打たれたその活動は、大きな白いパラソルと黒板テーブルを公園に持ち出して、そこが公民館という場になってしまうというもの。そもそも、公民館ってなんだっけ?その最小単位はなんだろう?と考えさせるものがありました。

公民館でより良い活動をするためには、立派な施設が必要である。公民館で働くスタッフは、何かをずっと提供しなければいけない。公民館の現場では、こうでなければならないと思い込んでしまっている公民館像というものがあると思うんです。それに対して、もっとこんなことやあんなことができるよと、固くなってしまった公民館像をやわらかくしたり、ゆさぶったりしていきたいです。

なんかマッサージ屋さんみたいです。「パーラー公民館」のキーワードの1つに、「スタッフは『何もしない』」がありましたよね。講演会などでお話をする機会が多いと思うんですが、社会教育を担う方々とのコミュニケーションのなかで、これは伝わっているなと思える側面と、これはなかなか伝わらないなという側面があると思います。そのあたりの感触をお聞きしたいです。

「スタッフは『何もしない』」は、「何もしないということをする」といいますか、その代わりに、地域の方々のお話をよく聞くことを心がけているんです。それに、誰もが集える場であるためには、「何もしなくてもそこにいることができる場」であることも大切ですよね。そういう場所だから引き出せる地域のニーズもあるはずです。とはいえ、そんなお話をすると、結構、共感をくださる方はいらっしゃるんです。でも、みなさん「いいですね!」と言ってくださるものの、実際に行動に移す方はとても珍しいです。だから、「やっちゃえばいいよ」というのも伝えていきたいです。

パーラー公民館

何かやろうと思ったら大体のことができるはずだけど

いろんな障壁はあるかもしれないけど、思うところがあるなら、行動に起こせるはずということですか?

わたしは以前、「前島アートセンター」というスペースを運営していたのですが、とにかくお金がなかったんですよね。もう本当に志だけで成り立っているというか。

わたし、那覇市のオルタナティブ・スペースの「バラック」にも遊びに行ったことがあって、話には聞いていました。

公民館に関わってみると、資金もそうですが、人も施設も機材も、資源といえるものがたくさんあると思ったんです。これは、もう使わないともったいない。何かやろうと思ったら、大体のことができるはずなんです。とはいえ、実は、「私設公民館」のようなものへの憧れがあるのも事実です。もちろん公民館で活動する上で感じる制約もたくさんあります。「みんなのために」を推し進めていくと、誰のものでもなくなってしまうことがあると思うんです。誰か個人の確信や、顔の見える課題感に基づいて活動を形にした結果、地域にとって公益性のあるものになることも多くあります。でも、その始まりは「みんなのために」という顔をしていなかったりもする。だから、公共施設での仕事として進めづらいこともあります。それはもう、あの手この手で、いろんな角度から実現の方策を探るしかないかなとも考えています。

若狭公民館

役に立つアーカイブ

あの手この手でいうと、パーラー公民館もそうですが、「わかさ式・企画づくりのじゃばら手帳」や「わかさ式公民館づくりの心得『人が集まりたくなる場のつくり方とそだて方』」など、若狭公民館って、活動の記録やその発信を大切にされている印象があります。それに、ただ記録するだけでなくって、その知見を伝えるためのまとめが秀逸だなあと思っているんですが、それは企画の最初から考えているんですか?

公民館の活動はもちろんそうですが、その記録や発信のことは、最初から考えています。根底にあるのは、公民館像を広く問い直すことだったりするので、企画の最初の段階から、デザイナーさんやアーティストさんに入ってもらって、それをどう伝えていくのかの作戦会議もしています。

活動をしてみて事後的に発信を考えるケースが一般的には多いように思うんですが、宮城さんのアーカイブの残し方を見ていると、同じ苦労はさせたくないという気迫すら感じます。

やっぱりアーカイブを使えるものにしたいんです。目の前の地域や人の課題をどうにかしたい。公民館で働く職員の方でそんな風に感じている方は、もちろんいらっしゃいます。でもいざ動こうとすると、何をどこから手を付けて良いのか分からなかったり、説明の仕方に工夫が必要だったり、いろんな壁があるはずです。そういう方々の後押しになれたら、とても嬉しいんです。

わかさ式公民館づくりの心得

人と人とのつながりのあり方も問い直す

もう10年以上続いている若狭公民館での「朝食会」も印象的です。「頑張らない」、「入りやすくて抜けやすい」がモットーというのも気になります。

これも「頑張らないために頑張る」といいますか、何よりも雨の日も風の日も続けていくことが大切なんですよね。いつもあるから来れる人もいるし、離れても戻って来れる人もいる。「つながり」というものは、とても重要なんですが、ともすれば「しがらみ」に転じることもあります。コミュニティということを考える時に、みなさん入りやすくはするんですが、抜けづらくしてしまうんですよね。血縁や地縁とはまた別の人と人のつながりのあり方も考えていく必要があるだろうなと感じてます。

そういうゆるやかさというのも、「頑張らなさ」があるから醸し出されるんでしょうね。案外、「頑張る」ことだけをやるほうが簡単そうでもあります。みんなが一品持ち寄るのもいいですよね。お客さんというよりも、程よく場の当事者でいられるという感じがして。お客さんという立場だと逆に居づらくなってしまうこともありますもんね。

朝食会

わかりやすく短くまとめる、というところからはみ出るところ

ここまでの短い時間のなかでも、「何もしないということをする」とか「頑張らないということをする」とか、確かに問題提起としてゆさぶられます。

ありがとうございます。ただ、いろいろな角度から、そもそものところから問い直すことをやっているわけなんですが、どうも「それで地域や社会がどう変化したか?」と尋ねられると、奥歯に物が挟まったような物言いになってしまうんですよね。困難な状況にある方への施策や制度の改善が行われたりもしましたし、地域や社会への貢献の手応えがゼロというわけではもちろんありません。でも、何か1つの大きな課題を掲げて、その解決策を示して、成果を語る。そんな分かりやすいストーリーにどうしてもならない。あれやこれやといろいろとやっているうちに、思わぬことも含めて、いろんなことが同時に起こっているんですよね。

先ほど、マッサージ屋さんぽいですねといったのは、固まった概念を柔らかくするからなんですが、マッサージ屋さんって、ほぐされた後の人が何をするかというよりも、ほぐすところが大事ですもんね。でも、そのほぐされた人たちが、何かしら実現したり、課題にアプローチしたりもしますからね。だから、間接的に変化を起こしているともいえるかもしれない。ただ、間接的だからこそ、その変化の主人公ですとは言い切れない。

粒が揃ってないところ。短く省略できないところ。まとまりきらないところ。そんなところに、人の本当の気持ちが宿っていたりもすると思いますし、公民館はそういうはみ出るものを大切にする場所であってほしいとは思いますね。分かりやすくプレゼンテーションするよりも、なんだかそういうところがどうしても気になっちゃうんですよね。

パーラー公民館
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