公民館のしあさって
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talk event 「しあさっての公民館を語る会」レポート_01

talk event 「しあさっての公民館を語る会」レポート_01


日程:2021.03.14.

会場:繁多川公民館

スピーカー:牧野篤 (東京大学大学院教育学研究科・教授)

ゲスト:南信乃介 (那覇市繫多川公民館・館長) 、小林未歩・山田沙紀(愛と希望の共同売店プロジェクト)、山道拓人・千葉元生(ツバメアーキテクツ

進行:熊井晃史


公民館の初心に思いを馳せたい

みなさん、こんにちは。熊井です。今回のトークイベントには公民館にご関心がある方々にお集まりいただいていると思います。トークの中で、公民館の魅力やよろこびなどを再確認できるとうれしいなと考えています。聞き手役ではあるのですが、わたしの方から少しだけお話させていただきたいと思います。

いま、アタマの中に浮かんでいるエピソードがあります。学校の先生と話をする機会が多いのですが、理科の先生と話をしているときに、「年に何回か先生同士で集まって、初心を思い出す会をやっているんですよ」と話をしてくれました。どういうことかというと、例えば、理科の実験ですと、子どもたちは授業ではじめてその実験と出会います。一方、先生たちは何百回と繰り返し授業でやっているので、はっきりいって新鮮味がないわけです。それでいいのかという課題意識の中で、子どもたちと一緒に現象を驚けるような初心を思い出す会をやっているそうです。そういうの、とってもいいなーと思って先生と話をしていました。

今日のトークがそんな公民館の初心を思い出せる機会になるとよいかなと考えています。なので、牧野先生には、トレートに「公民館のどこが好きなんですか?」というトークはしておきたいと思っています。

他にもテーマとなるようなことをいくつか話題として提供しておきたいと思います。ロダンの考える人、という著名な彫刻がありますよね。この彫刻には功罪がある。みなさん、考えるといったときに、ああいう気難しい顔をして頭を抱えているようなスタイルの行為が、考えることだと思い込んでいる部分があるんじゃないかなと思うんです。牧野先生の本を熟読して、学びというもののあり方をとても豊かに感じることができました。ぜひ、そのあたりが気になったら、牧野先生の本を買って、読んでみてください(笑)。というわけで、学びと一口にいっても色んな捉え方があるんじゃないかという話もしていきたいと思います。

さて、まずは「公民館のどこが好きなんですか?」に入って行きたいと思います。牧野先生、さっそくですが、公民館のどのあたりが楽しかったりするのでしょうか。


【 牧野先生 】

ありがとうございます。どこが楽しいって、公民館も楽しいところは楽しいし、楽しくないところは楽しくないですよね。わたし、今回のトークで公民館の専門家という位置付けになっていますが、なんで公民館に関わっているかというと、なんででしょうね(笑)。わたし自身が公民館を含む社会教育にいるのは、簡単にいうと拾ってもらったからであって、もともとは違うことがやりたかったんです。行き場所がなくなっちゃって、拾ってもらった社会教育にいるという「たまたま」です。


たまたまだったということですか。

【 牧野先生 】

みんな、たまたまですね(笑)。今日、ここにいるのもたまたまです。拾ってもらったからです。それは言い方を変えると、いろんな縁があって、そこで拾ってもらいながら人生を歩むと、こうなるといったことでしょうか。そういった縁で公民館に関わってきて、巻き込まれていくと足抜けできなくなってきます。それが公民館の魅力でもあると、そういう風にも思いますが、ある意味では嫌なところですね(笑)。巻き込まれてしまうと足抜けできなくなって、抜けようと思っても抜けさせてくれないですよね。どんどん深みにはまってしまって、あるところを超えるとそれが快感になるのかもしれません。

だけど、公民館が、地域や社会の基盤をつくり、みんなの生活基盤をつくっていくことにつながっていくと、いろんなことが楽しくなってきます。いろんなことが公民館で実現していくことになると、自分が主役だと思えるようにもなってくる場所なのではないでしょうか。

わたしは度々、公民館は、人たらしな場所だという言い方をします。もうちょっというと、開かれている場所で、開かれた人たらしなんです。公民館は誰がいてもいい場所なんだけれども、だれもが巻き込まれていくと、最初は巻き込まれるのがある意味で面倒なので、しょうがないなと思いながら、だんだんそのことが快感になってくる。自分こそが動かしているんだという主役になっていきますね。まわりに煽てられるともっとやってしまう、またどんどん実現していく、そういったループに入っていく場所なんではないでしょうか。


たまたま居合わせた誰かと一緒にやる、ということの意味

前半からたのしくなってきましたね(笑)。そういった「たまたま」は、重要なキーワードだという気がしています。「社会基盤」や「みんなが主役」といったキーワードは押さえながら、あえて、「たまたま」というキーワードに踏み込んでいきたいと思います。そもそも、今回、出版を予定している本やエジプトに公民館をもっていくプロジェクトもほんとにたまたまですよね。また、牧野先生の本からインスパイアされたところですが、たまたま隣にいた人と何かを実現する権利や技術といったものの重要性が指摘されていました。たまたまというのは、語感は軽いんですが、地縁とか血縁だけじゃなくて、たまたまがつながってくるという人と人との関係性の捉え方は重要に思えてしかたがありません。牧野先生、このあたりはどうですか。


【 牧野先生 】

はい。たまたま居合わせた誰かと一緒にやる、ということを書いたと思います。居合わせたわたしみたいなことですね。それって、結局、わたしたちはアタマで考えて判断して行動していると思い込んでいるんですが、アタマってあとからくるんです。やってみた後でしか、何をやったのかがわからないはずなんです。なので、たまたま巻き込まれることや関係などが成立していく状況というのは、アタマで考えるというより、その場で見えないチカラに引っ張られちゃうという感覚が近いのかなと思います。結果として、たまたまが動いていくのではないかと。あとからアタマがついてくるので、たまたま動いちゃったあとに、こういうことを自分はやったんだと認識できるのでしょうね。幸運の女神には後ろ髪がないとよくいいますよね。

え、よくいうんですか?(笑)

【 牧野先生 】

ええ、よくいいますよ(笑)。なので、幸運の女神が現れた瞬間に直感的に行動しないとことは動かないのです。後ろ髪がないので、アタマで考えていては、幸運の女神は通り過ぎていきますね。少しむずかしい言い方になってしまいますが、アフォーダンスにつながってきます。

建築的なテーマともなってきますね。

【 牧野先生 】

生態心理学のジェームズ・ギブソンがいっていることですが、アフォーダンスは、もともとはアーキテクチャーというものがあって、空間をつくると、空間に基づいて自分たちの行動を決めてしまうといった考え方ですね。例えば、イスがあって、背もたれなんかがあると、ついついもたれかかってしまったりしますが、そうした環境がもたらす情報で、その人の行動を制御することになります。

人間の行動がある種、環境依存といいますか、環境とのインタラクションがあるんですよね。

【 牧野先生 】

そう、インタラクションがある訳です。もうひとつアフォーダンスは、さらに進めて考えていくと、わたしたちは空間を見ているんだけれども、遠くは遠くで、近くは近くだというのは、わたしたちは網膜に映った画像を平面錯視で捉えていると習いましたね。しかし、どうやら、最近はそうではないのかもしれないといわれてきています。

えー、そうなんですか!

【 牧野先生 】

簡単にいうと、空間の光の肌理みたいなところを読み取っていて、肌理が細かいか荒いかなどで遠近感を掴んでいるのではないかと考えられています。たった3センチしかない眼球で、錯視ができるのか、ぼやっとしか映ってないものを脳で処理している訳ですから、そんなことできるのかというと、どうもそうではないようです。例えば、目とか、いろんな受容器から入ってくる情報を感じとって、まっすぐ立てているといったことをアフォードされている、環境から情報が与えられているといった見方もあるんですよ。わたしたちは立っているというのですが、立つようにアフォードされているともいえますね。

立たされているとも考えられますね。

【 牧野先生 】

はい。立たされているといった感じになっています。そういう風に見ていくと、たまたまということも、たまたまそうなったけれども、自分で選んだというよりもむしろ選ばされてしまっているという方が正しいのかもしれません。選ばされてしまっているというのは、完全に受動的なのか受け身なのかというと、そうでもなくて、おもしろそうとか感じながら、自ら引きつけられてしまっているのではないかと思います。そういう関係の中で、たまたまが生まれるのは、簡単にいうと選ばれているんだけど選んでいるというバランスにおいて、いろんな活動が展開していくのは、正しい道を選んだということになるのではないでしょうか。


意志という言葉がありますよね。個人の意志、個人が所有できている意志だけではなくて、ある種の集団性を持つみんなが成長していくような意志ってのもあるよねということかもしれません。先生、このトークイベント、前半は時速40kmぐらいで行こうかと思ったんですが、ただいま200km以上スピードが出ているかもしれません(笑)ちょっと私の息継ぎがてらスローダウンをお願いしつつ、キーワードを改めて確認したいのですが、「開かれている」という言葉も気になるところです。

今回の本にも出てきますが、繁多川公民館でもそうですが、公民館の特徴はロビーに現れると、館長の南さんがおっしゃっていました。なぜ、ロビーに公民館の特徴が現れるかというと、ロビーという場所がたまたまの確率を上げることに貢献していたりするからともいえます。繁多川公民館のロビーはおもしろいですよね。まず、南さんの挨拶がとても素敵です。元気な挨拶が契機となって、来館者との関係を結んでいくことが促進されて、ロビーでたまたまなことが必然のようにたくさん生まれています。挨拶から、思いつきが思い出されたり、プロジェクトが生まれ、それが、目的的に人が出会わないからこそ、たまたま関係を結んでいくからこそ、いいんですね。


【 牧野先生 】

たまたま、パンパーンと無目的に出会っちゃうからです(笑)。

そういった意味でも、公民館はつねに開かれていますね。ロビーでたまたまから生まれた話など、ちょっと南さんに聞いてみましょうか。


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